【真説竹取物語】
昔、駿河の国に“竹取の翁”というものがありました。山野に分けて入り、竹を取り竹細工で生計を立てていました。六十歳も超えようというのにこの夫婦には子どもがありませんでした。
秋の小春日和のある日、翁は切り口からともて甘い香りのする竹が生えている薮を見つけ、そこから竹を取ってきて細工をすると、細工は面白いようにはかどり、しかもとても上手にできたのです。
この竹で作った品物は面白いように売れ、夫婦は一生懸命に仕事に励みました。お婆さんは仕事に夢中になって、着物の前がはだけているのも気がつかないほどです。
ある夕暮れどき、一枚の竹紙がお婆さんのはだけた着物の中に入り込み、奥深く入ってしまいました。そうするとお婆さんの気分が怪しく波立ち、ここ三十年ほど忘れていた悩ましい気持ちに襲われたのです。
一方のお爺さんも、竹を切ったり割ったり、するたびに吸い込む竹の精のためにやはり心を乱されていたので、お婆さんを抱き寄せ、久しぶりに青春を味わったのです。
これを期に、竹を切ったり割ったりするたびに竹の精を吸い込んだのでしょう、だんだん若さを取り戻しました。そして八十八歳の米寿の祝いになんと可愛らしい女の子を産んだのです。
老夫婦は、「何だあの爺婆は、八十八にもなって子どもを産むなんて。恥ずかしいと思わないのか」と近所の人たちから笑われるのを恐れ、「この子は、わしが割った竹の中からでてきた子なんだ。だから名前もかぐや姫とした」とごまかしたのです。
かぐや姫は、お爺さんお婆さんが竹の精を受けて作った子どもだったので、肌の色艶は良く、竹が三ヶ月で成長するように百日ほどすると成人の印の生理が始まり、一層美しくなりました。
…(これからは『竹取物語』と同じように)三人の公家から熱心に求婚され、無理難題を行ってその求婚を斥けました。そして帝から后に所望されましたが、それも断ったのです。
かぐや姫が誕生して八年目の五月の新月(月が隠れて闇夜になること)の頃になると、姫は物思いにふけるようになりました。そしてお爺さんお婆さんの前に手をついて、「お爺さんお婆さん、私は実は竹の精で、人間の子ではありません。今月の十三日には竹の園へ帰らなければなりません。いろいろとお世話になりました」と泣きながら話したのです。
お爺さんお婆さんはびっくりして帝にそのことを話し、なんとかかぐや姫を竹の園に帰さない方策を立ててほしいと頼んだのです。
帝は軍勢を遣わし、かぐや姫の部屋をねずみの這い出る隙もないほどに十重二十重に取り囲みました。
しかし、十三日の真夜中、かぐや姫はお爺さんお婆さんと帝に手紙と不老不死の霊薬を残して消え去ってしまいました。かぐや姫を后に迎えられなかった帝は、“かぐや姫のいないこの世には不老不死の薬など無用”と言い、手紙を天に最も近い駿河の国の山の頂上で燃やし、霊薬をふりかけました。その煙は不老不死となって、今でも立ち上っています。そしてその山を不死(富士)の山と名付けられたということです。
これが『真説竹取物語』ですが、この真説には竹が回春の効果があり、また精力増進の働きがあることを意味しているのです。