【長寿について】
日本の独特の建築として、藁葺き屋根、茅葺き屋根があります。これらの屋根の特徴は、冬暖かく夏涼しいということです。わが国のような湿度の多い国には最適と言えましょう。
ところが現在ではほとんど見られなくなったのですが、笹で屋根を葺くという地方がありました。石川県、富山県、鳥取県などです。しかし今言ったように、現在ではほとんど見受けられなくなっています。
笹で、葺いた屋根にはどんな特徴があるのでしょう。実は笹葺きの屋根の下に住んでいる人たちは、長寿の人が多いということです。つまり屋根を笹で葺くと長生きできるということなのです。
これは単に呪術の言葉や言い伝えということではなく、データとして笹葺き屋根の下で生活する人たちに長寿者が多いことがはっきりと示されているのです。
わが国の植物学の泰斗・故牧野富太郎博士もこの事実を認めており、笹葺きの屋根をもつ家を視察した折、この事実を知り、屋根を葺いた笹に”ササ・テクトリウス・マキノ”と名付けているほどです。
これはラテン語で、”屋根を葺く笹”という意味です。屋根葺きに使われる笹は主としてクマ笹ですが、そのうち麦藁や稲藁などを混ぜるようになり、純粋の笹葺き屋根がなくなってしまいました。
長寿を約束する笹葺き屋根が絶滅寸前となったのは、笹で屋根を葺ける人がいなくなったこと、五、六年ごとに葺き替えなければならず、そのための手間賃が高くなり、笹よりも現在の建材で屋根を作ったほうが、安く付くということがあるのかもしれません。
笹葺き屋根の下に住む人が長生きだったことの理由は、我が国の気候に合った―高温多湿―屋根だということのほか、ここに住む人たちが農業をしていて、新鮮な農作物などを摂っていたこと、さらに笹が生えている土地の地下水を飲料としていたこと、笹が放出する「フィトンチット」を全身に取り入れていたことなどにもあるのではないかと思われます。
屋根を葺くことが不可能となった現在、笹を刈り取ってきて室内にぶら下げておけば、その効果が高く、夏は風通しが良くて涼しいこの笹葺き屋根は、健康長寿の為にも再び見直してほしいものです。